メタルボタンの撮影に・・・。
2023年5月23日 火曜日

今日はチェコのメタルボタンの話をしようと思います。チェコでヴィンテージボタンを集めていると、たまに古いメタルボタンに出会うことがあります。かつて国営企業だった現在のコヒノールは国外では文具メーカーとして知られていますが、裁縫道具を製造する部門もあり、目を引くヴィンテージのメタルボタンはほとんど、社会主義時代の国営企業・コヒノールで製造されたものです。フィリグリーのメタルボタンに代表されるような軽やかでレース細工を思わせるような美しいメタルボタンや花に水をやる少年をモチーフにした遊び心を感じるデザイン性の高いボタンなど、その振れ幅はさすがチェコ、こちらも中々奥深い世界です・・・。

しかしながら、チェコでのメタルボタンの歴史を紐解くとチェコスロヴァキア時代・国営企業よりもっと前、ナポレオンの時代よりもっと前・・・なんと18世紀後半にその製造が始まったという記録が残っています。さらに詳しく申し上げると1770年頃、チェコとドイツの国境地帯で最初の錫製のボタンが作られたと記録されています。そしてメタルボタン製造の場はティサー(ドイツ名Tyssa)にも普及し、現在ある北チェコにあるメタルボタンの会社Tyssaへと繋がります。

プラハ、ベルリン、パリ、そしてミラノ・・・すでに19世紀初頭には、これらの都市の至る所でティサの装飾ボタンを見ることができたといいます。最初の工房で修行した弟子達は徐々に熟練の職人へと成長し、彼らによってチェコのボタンはヨーロッパ中に広がりました。19世紀末には、68もの小規模な工房で、800人ほどの職人がボタン製造していましたが、これらの工房の多くは家族単位で営まれました。

私と個人的なメタルボタンの出会いは上の写真のバラのフィリグリーのメタルボタンです。6年前でしょうか、7年前でしょうか・・・既に思い出せませんが、このボタンに恋をして以来、製造元であるTyssa社とのお付き合いは今でも続いています。特にカメラマンとしてTyssa社の宣材写真や製品の写真などを数回撮影させていただく機会があり、製造の様子も詳しく見学させて頂く機会に恵まれました。

ちなみにメタルボタン製造の現場はチェコの最北端、シュルクノフという街で、かつて劇場だった美しい建物の中で行われています。

日本でも長く続く伝統産業を見ると、製造の根幹部分は昔と変わらず、人の手とその技術がものづくりの基礎となっていることが多いものですが、メタルボタン製造を見てもそのプロセスは昔とほとんど変わるところがありません。机上にてまずはボタンデザインを製作し、その押し型作りから始まります。

こちらはかつての国営企業コヒノール時代に作られたデザインの設計図。

こちらはボタン用の押し型ではありませんが、このように職人さんが手作業でボタンになる錫の帯の型を抜く押し型を製作しています。熟練した技が必要なとても細かな作業です。

こちらは大変古いメタルボタンの押し型です。Tyssa社では100年以上古い型も数多く所蔵しています。

糸巻きのようになっているのは、錫の帯です。このメタルの帯へボタンのモチーフを鋳造していきます。押し型(凸型と凹型)の間に金属を差し込み、型の模様をそちらへプレスします。この作業には自動プレス機、または圧縮プレス機を使用します。細部の加工には小さな補助プレス機を使用して仕上げていきます。

こちらは鋳造して打ち抜かれたメタルボタンの上部です。押し型には必ず凸型(母型)と凹型(父型)が必要になります。

 

ボタンの上半分と下半分を継ぎ合わせるプレス機でパーツを合わせ、やっとメタルボタンの形が整います。ですがこの後も長い工程が待っています。

まずは脱脂を行い、次に亜鉛メッキ槽で表面処理を施します。一部のボタンは手作業で色付けや金彩を施すこともあります。またはメタルボタンは特殊な研磨剤を使って仕上げています。表面をマット加工にしたり、ざらざらした目でも手触りでも楽しめる質感に加工します。そして最後に亜鉛メッキの安定性を保ち摩耗防止のための塗り直しを行い、そこでやっと完成ということになります。

 

それぞれの工程で、人の手が細部をはかり、感じ、目で確認し、作業が続きます。完成したメタルボタンただ眺めるだけからは、想像も出来ないほど数多くのプロセスを経て製造されています。今回全てではありませんが、その一部を自分の目で見て撮影させて頂いて、改めて伝統としてのものづくりの奥の深さに触れた気がしました。

「チェコのメタルボタンは薄くて、中が空洞で世界一軽いんだよ。」とTyssa社の社長さんが自慢げにおっしゃった言葉を今改めて思い出します。大きくてもジャケットなどの表面にぴたりと寄り添い、重さのために下を向いたりしません。私はフィリグリーの一番大きなサイズをピアスにした物を使っていますが、ピアスも然り、重さが気にならず下を向いたりもしません。そんな、使ってみて初めて気づく良さも沢山あると確信しています。

バーボフカでは新旧のメタルボタンの販売を予定し、その準備を進めています。新しくメタルボタンというカテゴリーを作り、現在製品を撮影中ですので、まだまだ時間はかかりますが、販売開始の折にはまたメールマガジンでお知らせする予定ですので、皆様どうぞご期待ください。

Tyssa社のメタルボタンの卸売にご興味のある方もバーボフカ(日本語で対応いたします。)あるいはTyssa社(英語で対応いたします。)の方にお問い合わせ頂けますと詳しい資料をご提供いたします。

Tyssaホームページ:https://tyssa.co/
バーボフカお問合せメール:contact@babovka.com