5月27日28日(2023年)に開催された王様騎行という民族衣装のお祭りを見に、南モラヴィアのヴルチュノフという街に行ってきました。プラハからはウヘルスケー・ブロドという街まで列車で約4時間、そこからバスで向かいます。5月は菜の花の季節、車窓からは一面黄色の菜の花畑が広がります。

(写真は2眼レフの古いフィルムカメラで撮影しましたので、デジカメを持参する余裕なく、ブログの写真はiPhoneで撮影です。悪しからず・・・。)

初日はダンスや歌のステージで盛り上がります。ちなみにチェコ語ではJízda králů(イーズダ・クラールー)というこのお祭り、王様たちの行進という意味で日本語には近年、王様騎行と訳されているようです。民族衣装を着た若者たちが、騎馬と徒歩で街を練り歩くというのがその祭典の主な内容です。モラヴィアの街ではその他フルクやコノヴィツェで行われていますが、ヴルチュノフの物が一番ポピュラーでその歴史も200年以上のものになります。また毎年行われるのはヴルチュノフの街だけです。1808年から途切れることなく毎年開催される由緒正しいお祭りで、ユネスコの無形文化遺産にも指定されています。かつて、タタール人の襲撃から逃れるために王子と悟られない為に、王子に女装させ護衛して馬でチェコまで逃亡するという伝説のようなものが元になっていると言われていますが、それも諸説あり定かではありません。いずれにせよ、このお祭りの主役は顔があまり表に出ぬよう、リボンや飾りでいっぱいにして女装した馬に乗る王子であることは間違いありません。

お話を一旦ステージに戻します。
女の子はとても大きなスカートを着ているので、飛んだり跳ねたりせず、もっぱらくるくる回る動きが多いのに対し、ステージの男の子たちの踊りのかっこいいこと!
素早い足さばきとリズム感、軽快さにまた観客の歓声も相まってこちらの体まで温まってくる気がします。

こちらの男の子も「素晴らしい衣装ね。」と声をかけると得意げな表情をして写真を撮らせてくれました。

こちらは古い衣装についていたガラスボタンを新しく新調したベストにそのまま付け替えたんだそうです。このふわふわしたフリンジのようなものも、モラヴィアの民族衣装には欠かせないアイテムですが、昔々はラクダの毛を染めたものを使っていたとか。(今では皆さん普通の毛糸を使っています。)

草に腰をかけて休む男の子も背後から、美しい刺繍をパチリ。ハートのモチーフが前後の見頃に刺繍されていて本当におしゃれだわ〜と見入ってしまいます。

街を歩いていると、この祭典王様騎行のポスターを発見。優雅で軽やかな線描、見たことのある描画・・・。そうです、これは当店バーボフカでも販売のある画家、カレル・ベネシュのイラストです!1986年の作品だそうです。ちなみにカレル・ベネシュはまさにここ、ヴルチュノフ出身の作家でこの王様騎行を描いた作品も数多く残しています。(ちなみに王様騎行をテーマにした絵画は欲しいけどとても高額で手が出ません・・・。)

日が改まって28日。この日は王様のパレードで民族衣装の若者たちが街を練り歩く日です。私も早速フィルムカメラを携えて、厳かな気分で朝8時からの教会の特別なミサに参加させていただきました。この王様騎行のお祭りは、18歳になる青年たちを祝う成人式という意味もあります。ですので、この年に18歳なる男女は衣装に身を包んで教会の中央に列を成して神父様の祝福の言葉をいただきます。神父様が「いつもは皆さんはなんとなく味気ない服装で過ごしていることも多いでしょうが、本日あなたたちが身に纏う、色とりどりの麗しいその色は神様に捧げるものです。」とおっしゃっていた言葉がとても印象的でした。改めて若者、おめでとう!と心の中で言葉を唱えました。

ミサが終わると教会の前の階段でひな壇記念撮影。

そして通りの向こうから吹奏楽団が向かってくるのも見えます。「おー、いよいよだぁ!」と私も他の人たちもワクワクと心が高鳴ってくるひと時。

そして、ついに今年の王子のお出ましです!口には例年通りもちろん薔薇の花を口に咥えています。例のタタール人に声を聞かれて男の子ってバレたら大変!というわけです。(諸説あります。)とにかく王子はただ馬に乗せられて連れていかれるだけ。それでもさすがは主役、リボンの合間からちらりと見えるお顔、女性でも男性でもなかなか見目麗しいお顔です。

その一方で王様の護衛の若者たちはなんとも賑やかに観衆に指差しで、大声で声をかけながら通りを練り歩きます。「そこの金髪の女性、いいですねー。はい、王様に寄付を!」というような掛け声で、鞍や鎧に付いている木箱に寄付を募ります。私も「はい、そこの日本人!いたねー!来たねー!」と大声でいじられ、周りの人にくすくす笑われる一幕も。

 

寄付はもう一人の日本人、バーボフカ息子に託し、私はもっぱら写真撮影。何度見てもこのお祭り本当にうっとりするほど美しく、衣装も踊りも歌もそしてお酒も!全て揃った夢のような祭典です。

特に私の目を引くのは古い民族衣装を着ている人たち。この女の子はおばあさんから譲り受けたツーピースの民族衣装で私の目には一際目立って輝いていました。刺繍も今の機械でプログラミングされて施された物に比べ、人の手でちくちくとひと針ひと針刺されたものは全然趣が違います。リボンひとつとっても近年、綿素材からポリエステル素材に変わり質感が趣を変えました。手作業にうるさいバーボフカ店長、文句を言ってはキリがありませんが、ここでも手作業の圧倒的な存在感の違いを感じざるを得ません。

このお嬢さんもかなり古いリボンのついたエプロンをしていました。頭の飾りのコカルダという丸いワッペンも、長く受け継がれてきた経年のなんとも言えない美しさを感じます。これから夏の終わりまでチェコ共和国特にモラヴィア地方では民族衣装の祭典が数々行われます。プラハとモラヴィア、もう少し近かったらいいのにーといつも思いますが、遠いからこそこの夢のような世界を見られた時の感動が増すのかもしれません。何度でも、また訪れたい素敵な祭典です。